市立豊中病院では豊中市の地域中核病院として心温かな信頼される医療を提供します。

市立豊中病院公式ブログ

HOME >市立豊中病院公式ブログ

ここから本文です

市立豊中病院公式ブログ「病院長のつれづれ日記」

胃の手術を受けたあとにでてくる貧血

2013年02月12日

体中に酸素を運ぶ赤血球、その赤血球は骨髄で作られますが、材料として鉄とビタミンB12が必須です。その鉄の吸収には胃酸が、ビタミンB12の吸収には胃で分泌される内因子というタンパク質がこれまた必須です。従って胃を手術で切除をすると高頻度で貧血が起こってきます。もし胃を全部摘出すれば何年か後に必ず貧血が起こります。“何年か”という時間差があるのは鉄もビタミンB12も年単位分の貯金があるからです。これは血液内科分野では常識の範囲の知識です。

イメージ図最近、「アナルス・オブ・サージェリー」という外科の一流雑誌に、早期胃がん381例について胃切除の術式と術後の貧血についての論文が掲載されました。今頃、胃切除後貧血で一流雑誌に掲載されるのは、ちょっとびっくりしたのですが…結果をみると、術後3年で鉄欠乏症が69.1%(鉄の貯金がなくなった状態)、鉄欠乏性貧血31.0%でした。術式による違いをみると、幽門側胃切除群64.8%、胃二指腸吻合術群に比べ胃空腸吻合術群で発症頻度が有意に高かったとのことです。なお胃全摘では3年で90.5%と非常に高い発症率でした。

なるほど、胃を切除したあとは、残った胃と腸を吻合して再建しないといけないのですが、その際の手術の方法によって貧血の起こり方が違う、ということが新しい結果ということですね。でも、外科の先生が「手術では胃と空腸を縫い合わせます」と説明したときに「そこを何とか十二指腸でお願いできませんか?」というのは非現実的な気がします。おそらく外科医は最も安全・確実な術式を選択するでしょうから。

胃切除後貧血の対策は術後に鉄欠乏の発症をモニターするのが現実的です。鉄の貯金の残高は「フェリチン」という検査をすることで簡単に行えます。貯金がなくなってきたら、経口鉄剤を補充すればほとんどの場合、問題は解決できます。なお以前にもブログに書きましたが、鉄欠乏を食事療法で改善するのは無理です。食事療法だけで鉄欠乏を改善しようとすれば相撲の力士並みのカロリーを必要とするからです。

なお、ビタミンB12欠乏性の貧血は胃全摘出で起こりやすく、平均5年くらいでみられるようになります。この場合もビタミンB12の補充で解決します。ビタミンB12補充は原則筋肉注射ですが、最近では経口剤による治療もやや不安定ながら一定の効果があるとする報告が増加しています。胃全摘出ではビタミンB12欠乏と鉄欠乏が同時に起こることが多いのですが、この場合にはビタミンB12欠乏性貧血の所見が前面に出て、鉄欠乏は目立ちません。しかしビタミンB12欠乏を治療すると鉄欠乏の所見が現れてきます。

胃切除後貧血は治療に困ることは少ないのですが、早めに見つけるほうが良いのは間違いなく、手術後少なくとも数年間はときどき貧血の検査を受けるようにしてくださいね。

ホームへ戻るページの先頭へ移動